埼玉県北西部に位置し、神流川を挟んで群馬県藤岡市と隣接している埼玉県神川町。
「神の川」という地名が示す通り、清流・神流川の豊富な水に恵まれたこの土地は実りが多く、
特に近年は梨の栽培が盛んな地域です。
今回はそんな「神の川」で育まれた水と梨を巡るストーリーを、ご紹介いたします。
「海はないけど川がある!」ーーー川幅(堤防間)2.5kmで日本一という荒川を擁し、県土面積に占める河川の割合が全国2位を誇る我らが埼玉県。県内には魅力的な川がたくさんあります。その一つが「神の流れる川=神流川(かんながわ)」神川町の豊かな風土は、その神流川がもたらすものです。
「神流川水辺公園」に行くと、1km近く遊歩道が整備されており、川の流れる川音をBGMに川辺を散策したり、くつろぐことができます。川面に渦ができている場所もあり、流れが早く深い川なのだなと想像できます。
さらに川の上流、登仙橋を渡って神流湖(下久保ダム)に向かって車を走らせていくと、「三波石峡」と呼ばれている美しい渓谷にたどり着きます。ここは国の名勝・天然記念物にも指定されており、「三波石四十八石」といわれる巨石、奇岩が渓谷に連なっています。川の流れが形作った石や岩は、江戸時代から庭石として採石されたため、自然の状態で現存するのはここだけだそう。特に紅葉の時は見事な渓谷美を味わえそうです。川辺まで降りていって、石の名前と形を確認しながら散策してみるのもいいですね。
「神流湖(下久保ダム)」は昭和43年に完成した堤高129mの重力式のコンクリートダムです。下久保ダムが完成するまでは、3年に1度の割合で神流川が氾濫し、水害が発生してきたということですが、ダムが完成してからは被害が激減。昨年(2019年)秋の台風の時も、緊急放水せずに済んだということですから、その貯水力は見事です。
ダムからさらに城峯山方面を進むと、今も絶えることなく湧き出る名水「神乃泉水」があります。「水源の森100選」にも選ばれており、水汲み場が整理されて飲用もできる(煮沸が必要です)ので、マイボトルを持って太古からの湧水のパワーを身近に感じてみるのもオススメです。
神流川の水の恵みを今、具体的に受けて育っているのが「梨」です。神川町は隣の上里町とともに、江戸時代から梨を栽培してきたという歴史があり、埼玉県内で最も古く伝統のある梨の産地です。今回は、2020年夏に発足した「梨PR隊」の方々に、お話を伺ってきました。
「この地が梨の栽培に適しているのは水捌けが抜群にいいから」と教えてくれたのは、上里町の相川崇樹さん。梨農家の5代目で、梨PR隊の隊長です。「この地は何万年前には川底だったため砂利が多く、その上に神流川上流からの肥沃な土が載り、とても水捌けの良い土壌が形成されました。作物を育てるうえで水捌けが良いということは、最良の条件ですからね。」
果実の中でもなぜ「梨」なのかといえば、現在の群馬県前橋市で、江戸時代に梨の栽培方法を開発した方がいて、その流れを汲んでいるからだそう。世界遺産になっている富岡製糸場と絹産業遺産群と同様、神川町の梨は、明治以降、日本一の栽培技術を受け継いで発展してきました。
神流川が育む肥沃な土壌という地の利に加え、江戸から明治時代に受け継がれてきた日本一の栽培技術によっておいしい梨を作り続けることができたのです。
神川、上里で栽培される梨は種類も豊富です。8月の暑い時期に収穫される「幸水」、甘いジャンボ梨として人気急上昇、埼玉限定品種の「彩玉」、みずみずしさが魅力の「豊水」、お彼岸の頃から出回る「あきづき」、10月以降に出回る晩生梨の代表「新高」、11月にかけて収穫される「新興」などなど。梨ってこんなにたくさん種類があって、さらに旬の時期も意外と長いことに驚きます。収穫の時期にはずらりと並ぶ梨の直売所は、神川町の季節の風物詩です。
しかし、今そんな梨農家がどんどん減ってきています。昭和30年台後半〜40年代頃は400〜500軒くらいあったそうですが、今はピーク時の3分の1ほどに減ってしまっているそうです。
その大きな理由のひとつは、生産者の高齢化、後継者不足問題です。ここに一石を投じたのが、梨PR隊の副隊長、神川町出身の荻野隆雄さんです。
「以前は都内で家具職人として働いていましたが、2年前に神川町に戻ってきたんです」10年ぶりに戻ってきた故郷。梨の町だと思っていたけれど、梨畑が減少していることに驚いたそうです。「戻ってきたからには自分が面白くなることをやりたい。神川町で何ができるだろう」と考えたときに、梨がキーワードとして出てきたと言います。荻野さんの実家は梨農家ではないため、梨農家を辞める人たちの畑を貸してもらい、梨栽培を始めました。
梨栽培を始めて2年。手応えを聞いてみると「梨を育てる全部の行程が楽しいです。収穫が終わったら秋から冬にかけて木を剪定。春になったら花が咲くので、受粉用の花粉を取り、実を大きく育てるために摘果をして、芽かきをして、実が育ったら袋掛けをして。手間暇かけた分だけ、成果は違ってきます。僕は早く栽培を始めたくて、師匠から『あと1年待て』と言われたのに始めてしまいました。それでもおいしいと言ってもらえる実を育てられたのは、ここが梨に適した土地だということが大きいと思います」と荻野さん。梨農家として独立を目指して研修中です。
「今の大きな問題は、生産者の高齢化だけではなく、お客様も高齢化、木も高齢化していること」と荻野さんは言います。木を植え替えると、実が収穫できるまで5年程ロスができてしまい、その分梨農家の収入が減り、街全体の梨の生産量も減ります。また、常連のお客さんも高齢化しているので、ある日突然来なくなるかもしれない。そうした「地域が抱える問題をどう解決していくか」も意識しながら、梨PR隊は活動しています。
梨PR隊は現在「梨のまち」としての知名度をもっとあげていくためSNSを活用しています。インスタグラムのアカウント「『kamikaminashi』神川・上里 梨PR隊」には、梨の生育状況や梨農家さんの日常、地域の情報などを発信していますが、今までの常識に囚われない新しい「梨のまち」の姿をアピールしています。
投稿の中でも目を引くのが梨を使った料理の投稿です。「梨とルッコラのサラダ、甘鯛のパリパリ鱗焼き 梨のケッカソース添え、梨のカッサータ」は、神川町の飲食店が協力して提供してくれたそうです。梨がこんなお洒落な料理となって生まれ変わるとはびっくり。今後は、梨を使ったレシピの公開や、通年で展開できる梨の加工品(ジャム、ジュースなど)の販売、梨を買いに来た人に神川町の飲食店や施設で割引サービスができないか、など考えているそうです。「梨をきっかけにいろんな事業者が繋がって、町が循環していく。それが新しい梨のまちの形になると思っています」と荻野さんは明るく語ってくれました。
少し頭をかがめながら入った梨畑の中は、小さな森のようで居心地が良かったです。梨は完熟の見極めが難しいため、梨狩りは気楽にできないそうですが、チャンスがあれば農家さんの許可をいただいて梨畑の中に入ってみては。神流川の恵みと梨農家さんの愛情をたっぷり感じて、梨を益々好きになること、間違い梨(なし)です!
直売所の新鮮な獲れたての梨は、とても甘くみずみずしいおいしさです。梨のほか、冬桜など、自然の恵みを満喫できる神川町、足を運んでみてはいかがでしょうか。
[インスタグラム「『kamikaminashi』神川・上里 梨PR隊」
https://instagram.com/kamikaminashi/
神川町の梨情報・梨直売マップ
http://www.town.kamikawa.saitama.jp/kanko_bunka_sports/tokusanhin/955.html
冬桜が花開く10月下旬から12月上旬にはライトアップを行います。深紅に紅葉したモミジと冬桜の淡いピンクの花が、幻想的な雰囲気を醸し出しています。
例年10月最終日曜日には「冬桜まつり」が開催されます。郷土料理や特産品の販売などの楽しいイベントが目白押し、例年大勢の観光客でにぎわいます。
冬桜のスポット「城峯公園」の詳細はこちら
※「冬桜まつり」の2020年の開催はございません。
https://www.kamikawa-kanko.com/miru/城峯公園/
神流川の上流には神流湖があり、そこには、とても珍しいL字型に曲がった下久保ダムがあります。その形をモチーフにした「下久保ダムカレー」は、道のオアシス神泉の、人気ナンバーワンメニューです。神流川の畔で、ゆっくりとした風景を眺めながら堪能できます。
※2021年3月現在の情報です。