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ちょこたび埼玉

サスティナブルな未来の探求
自然に感謝しながら、自然を食する「秩父市」

武甲山や両神山などの山々に囲まれた秩父盆地。
そこに暮らす人々は、昔から自然の恵みを大切にし続けてきました。
秩父で食べること、見ること、それは自然とともに生きることでもあります。
今回は、サスティナブルをテーマに持続可能な未来を探りに、秩父市を旅してきました。

雄大な武甲山に見守られ発展した文化と産業

 山に囲まれた秩父地域は、自然の恵みを無駄にしないよう、昔から知恵を絞ってきました。秩父の象徴「武甲山」は、ヤマトタケルが東征の成功を祈って山頂に武具や甲冑(かっちゅう)を納めたという伝説が残る神の山。その武甲山は、良質の石灰石の採掘地でもあり、セメントの主原料として高度経済成長期の日本を支えたことでも知られています。その開発が進んだ大正時代には、大胆で華やかなデザインの織物が注目を集め、秩父銘仙(ちちぶめいせん)として人気ファッションとなりました。

 近年の秩父は養蚕からセメント業、今は主に観光地として人々を惹きつけています。例年12月に行われる秩父夜祭は、京都祇園祭、飛騨高山祭と共に日本三大曳山祭のひとつとして、平成28年にユネスコ無形文化遺産に登録されました。これらは秩父の人々がこの土地で生きてきた歴史そのものであり、これからもずっと引き継がれていくものです。そんな秩父のサスティナブル、持続可能な今と未来の姿が、「食」を通して見えてきました。

シェフ自らが野菜を育てて料理を提供

 秩父神社の表参道(番場通り)にある、古民家をリノベーションした複合施設「秩父表参道Lab.」。その1階にあるイタリアン・レストラン「クチーナ・サルヴェ(cucina salve)」にシェフ・坪内浩さんを訪ねました。

 「クチーナ サルヴェ」はオーガニック食材を使ったイタリアン・レストラン。シェフ自らが畑で種を撒いて有機野菜を育て、小麦を刈って小麦粉を作り、鶏の世話をして卵を育てています。シェフが徹底して無添加にこだわるのには理由がありました。

 「子供の頃からアレルギー体質で、食べられないものが多かった。徐々に克服したはずだったのですが、生活が不規則になった20歳代に再発、仕事が回らない状態になってしまいました。」と坪内さん。「自分が食べられないものは、お客さんに一切出すのは辞めよう」(坪内シェフ)と決意。市民農園等も使って自家栽培を始めたものの知識と経験不足のために苦戦する中で、小川町の霜里農場の金子美登さんと知り合い、本格的に有機農業を学んだところから坪内シェフの農業人生が本格的に始まりました。

 悪戦苦闘しながらも、教えてもらったノウハウを地元・秩父で実践し、今では約150種類の野菜を収穫できるまでに。

 「レシピはその時に畑で採れたものを見ながら考えていくスタイルです。秩父は寒暖差が激しく2週間おきに収穫する野菜の種類が変わるので、レストランのグランドメニューが作れないんです。その工夫として、野菜の採れない春の端境期(3月下旬〜5月上旬)には山菜を、秋の端境期(9月下旬〜10月上旬最)はキノコやジビエを提供します。冬は産直の鮮魚と野菜を合わせた北イタリア料理、夏はトマトやパプリカなどをたっぷり作った南イタリア料理など、主に秩父で採れる食材を使って、1年間かけてイタリア各地の郷土料理を作って提供しています。」

世界に誇れる秩父盆地の食材の魅力

 19歳から料理の道に進み、イタリアンはもちろん、世界各国で美味しいものを食べてきた坪内シェフは「秩父の食材は、どこにも負けていない」と自信を持って語ります。その理由は秩父盆地特有の気候にあるといいます。

 熊谷市に負けず劣らず夏は暑く、気温が40度近くまで上昇する一方、冬は最低気温がマイナス10度以下となる日も多く、年間の最低・最高気温差の開きが50度以上。特に冬は昼夜の寒暖差も激しく、山の上の方は暖かいのに日の当たらない盆地の中の平地は寒いという逆転現象も起こるといいます。

 「秩父盆地の中にある、寄居町風布地区では、山頂付近の南側の斜面でみかんなどの果物栽培が300年近く行われています。秩父盆地は、温暖な地方で育つみかん栽培の北限地域のひとつなのです。一方、秩父音頭の発祥地として知られる皆野地区の小高い丘にはりんごが実り、りんご栽培の南限地域でもあります。」(坪内シェフ)

 夏の暑さでサツマイモや里芋などの南国の野菜を育てられる一方で、冬の寒さではジャガイモや北国で育つ冬野菜も育てられるのも秩父ならでは。
 「秩父は四季感、季節感がはっきりしていて、しかも目まぐるしく変わる。何百種類も種を蒔いて、採取して、また育てて…。これを十数年の間繰り返した結果、今では150品種の野菜を栽培するに至ったのです。今も毎週のように種を蒔いているので、よく『種を蒔く料理人』と呼ばれています。」

循環型有機農業を支える地域とのつながり

 オーガーニック(有機農業)にも様々な種類があり、坪内シェフが実践しているのは「循環型有機農業」です。卵を割れば殻が出る、精米すれば籾殻や米糠が出る、豆腐を作ればオカラが出る、そういったものを捨てずに、微生物の力を使って分解し、肥料にして畑の土作りに役立て、野菜を作っていく。

 「循環型有機農業には、そうした資材がたくさん、しかも持続的に必要なのです。最初は(有機農業を教えてもらっていた)小川町から分けてもらっていたのですが、他の土地から持ってくるのでは移動に余計なエネルギーを使ってしまう。ならば勇気を出して、地元のお豆腐屋さんに『お金を払って廃棄処分する分だけでもいいから、僕らが育てている鶏の卵とオカラを交換させてもらえませんか?』と相談したら『こちらこそ助かります!』と言って分けていただけたのです。」(坪内シェフ)。

 一軒ずつ声をかけた結果、地域と繋がっていき、今では造り酒屋さんから米糠や米粉、神社からは境内で出る落ち葉、公園の刈り草などが、坪内シェフの畑に運ばれてきて良質な腐葉土となり、飼料や肥料となり、野菜や鶏を育てています。こうして十数年をかけて、秩父市内だけで完結できる循環型有機農業が確立されました。

 「僕らが育てている鶏は、米糠やおからなどの飼料をそのままではなく、微生物の力で一晩発酵させたものを食べています。栄養面の吸収が良くなるのはもちろん、その鶏から生まれた自然養鶏の卵は、着色料や薬剤など余計なものが一切含まれていないので、安心して召し上がっていただけます。」

サスティナブルな未来へのヒントに

 レストラン「クチーナ サルヴェ」の店内は、そんな坪内シェフの心意気がすべてに渡って現れています。入り口の漆喰の塗壁はシェフの畑の土を塗り込んであり、エントランスのアーチの樫の木も、シェフが山から切り出したもの。武甲山のある方角にはセメントをイメージしたモルタルの壁があしらわれ、また、店内を飾るドライフラワーは季節ごとに入れ替えながら飾りつけされています。そして、テーブルは秩父の古民家の民具を再利用された手作りのもの、カウンターを彩るオブジェはウイスキーの樽材や秩父の谷で見つけた流木などで作られたもの、料理を盛る器も自ら制作といった具合に、店内にあるものの多くが再利用された材料を活かした手作りのアート作品となっていることには、驚きを隠せずにはいられません。

 「1つのことをやっていると飽きてしまうのもあるのですが(笑)、僕が特別というより人類は本来、分業せずにいろんなものに携わって暮らしてきたんだと思うのです」と坪内シェフ。
自然の恵みに感謝し、無駄を出さないよう工夫してきた秩父人の知恵は、坪内シェフにもしっかりと受け継がれているようです。レストランで美味しく食べることが、すでに持続可能な環境への寄与につながるなんて、こんな楽しく嬉しいことがあるでしょうか。秩父の食の物語はサスティナブルな未来を模索し続ける私たちに、きっと大きなヒントを与えてくれるはずです。

秩父市のグルメ紹介

クチーナ・サルヴェ(cucina salve)

「種をまく料理人」坪内浩シェフの、イタリアンレストラン。
秩父の大地で育ったオーガニック野菜と、旬の食材で織りなすイタリアの郷土料理を秩父の食材で再構築されたメニューの数々をお楽しみ頂けます。

クチーナ・サルヴェ(cucina salve)の詳細はこちら
http://www.salvagest.jp/

手打ちそば武蔵屋

秩父神社から徒歩1分。自社碾きそば粉を使った手打そばが美味しいお店。長板葺きの緩やかな勾配の妻入り屋根に、2階の出格子窓が特徴的な日本家屋な建物が特徴的で、店内は、天井も高く、柱や梁など、木材の特徴を活かした造りとなっています。

手打ちそば武蔵屋の詳細はこちら
http://www.chichibu-musashiya.co.jp

WATAGE

白の外壁、ナチュラルな木目を基調とした内装が特徴的。昼はおしゃれなオープンカフェ、夜には素敵なバー空間で美味しいお酒とお料理を楽しめます。半個室も人気。秩父メープルシナモンワッフルはファンが多く、こだわりの大きな本格石窯で焼いたピザも本格的です。

WATAGEの詳細はこちら
https://watage.owst.jp

MAPLE BASE(メープルベース)

2016年春、秩父ミューズパーク内にオープンした、日本初のシュガーハウス。秩父の森の循環活動を知ってもらうために作られたもので、店内ではカエデの樹液を煮詰め、メープルシロップにする機械も見学可能。秩父のカエデから採れるメープルシロップを贅沢に使ったパンケーキが人気です。

MAPLE BASE(メープルベース)の詳細はこちら
https://tapandsap.jp/projects/#third

山田ホルモン

かつて食肉処理場があったことから秩父ではホルモンが有名。食肉加工場から直接仕入れる豚内臓肉は新鮮でコストパフォーマンスが抜群です。

山田ホルモンの詳細はこちら
https://tabelog.com/saitama/A1107/A110701/11005411/

秩父市のおでかけスポット紹介

秩父神社

現存する社殿は徳川家康公から寄進されたもので、江戸時代初期の建築様式を留めています。埼玉県の有形文化財に指定され、「秩父夜祭」の名で知られる例祭は、神楽、屋台囃子、笠鉾・屋台の曳き回し、花火の競演が見事で、例年20万人以上の人出があります。

秩父神社の詳細はこちら
http://www.chichibu-jinja.or.jp

秩父ミューズパーク

秩父盆地の西側・長尾根(ながおね)丘陵の上にある公園。南北に広がる全長約3.3kmの広大な敷地内には、アクティビティ施設やスポーツ施設、ハイキングコースや展望台、レストランやショップなどがあります。

秩父ミューズパークの詳細はこちら
https://www.muse-park.com

動画でもぜひご覧ください。

※2021年3月現在の情報です。